慶應の実態―法学部編―

「慶應義塾大学」と聞いて皆さんはどんな印象を受けるだろうか。様々な不祥事で世間を騒がせてしまった大学でもあるが、世間一般にはやや華やかな印象もある大学だと思う。武蔵のような小規模の学校と比して、慶應は所謂マンモス校だが、そのメリット・デメリットは様々であるように思う。そこで今回は、その実態について知りうる限り書いていきたい。

私は法学部法律学科に所属するため、その観点からの事実・解釈・問題提起が多くなること予めご了承ください。

1.そもそも…慶應法学部はどんなところなのか

 慶應の法学部は、法律学科政治学科に分かれている。学科が異なると、必修科目等学ぶ内容がほとんど異なる。
 俗に、法律学科は法法、政治学科は法政と呼ぶ。
 慶應義塾HPによると、法学部の定員は、法律学科・政治学科に各々600人の1200人で、一般入試募集人員は460名となっている。残りは高校からの内部進学組と、FIT入試と呼ばれるAOからの人、指定校推薦の人がいる。男女比は59:41となっており、ほぼ同じくらいの人数がいるといって良いだろう。
 1・2年生は日吉キャンパスに通い、3・4年生は三田キャンパスに通うこととなる。

 やはり武蔵との違いという観点からも、大きく異なることは人数がスゴく多いという点だ。4月5月は(おそらく多くの人が真面目に講義に出席するため、)キャンパスのどこにいっても人がうじゃうじゃいる。昼休みの食堂・生協は修羅場である。

 また、表現が適切ではないかもしれないが、学生の質はピンからキリまで様々であるように思える。法学部では、内部生と一般入試生と推薦生がおおよそ1:1:1であるが、これと相関関係があるか否かまでは定かでない。あくまでこれは主観であって、慶應に入学している以上、その素質はある者が集まっているはずである。したがって、この差が生まれているように感じるのは、余裕のある時間をいかに利用しているかがカギとなっているのではないだろうかとも考える。入学してから何をするかによって大きく学生生活が変わってくるというのは、武蔵での学生生活と被るものがある。

2.講義について

 大学の講義は、多くの場合、一般教養科目(ぱんきょう)・語学・専門科目の3種類が存在する。その組み合わせによって、時間割を編成する。

 語学ではクラス分けがされ、全員が2か国語以上を履修する。また、一般教養科目は人文科学や社会科学、自然科学などといった高校での授業をさらに深掘りした内容の講義が受けることができる。
 そして、専門科目は、1年生の間、法律学の基礎となる憲法民法刑法を中心に学習が進む。それと合わせて法学という科目においては、法律を扱ってきた歴史についてや、法律を用いた国の統治についての海外の事例などを学習することができた。

 以下、法律学科に入学すると何が起こるのかを一緒に見ていこう。


法律学:1年生

 法律学科に入学したと言っても、法律の勉強をそもそもどうやったらいいのかや、何が重要なのかについては入学当初は全く分からないのである。しかしながら、大学の教授は特段容赦することなく講義を進めるため、テスト直前になってもしどろもどろになりながら勉強をしたのするものである。法律を勉強するとしても、法律に何が書かれているのか知らなければ勉強は進まないところ、「六法」を購入する必要がある。といっても、7000頁弱を有し重さ4kg程の「六法全書」を買う必要があるわけではない。しかし(ポケットには入らない)「ポケット六法」と呼ばれる国語辞典程度の厚さのものを買う必要がある。これが法律を学ぶ上で最も重要な教材と言っても過言ではないだろう。

 では、各法律科目について紹介したい。 1・2年生の間は主に、法律学の幹となる憲法民法刑法の講義が行われる。

 憲法では、最も重要な部分として人権保障の問題を扱う。すなわち表現の自由の問題であったり、政教分離規定についてであったりを、判例に照らし合わせながら講義が進む。
 刑法では、いわゆる総論を学習する。つまり皆さんが一般的にイメージするような「殺人罪」「窃盗罪」等の事例を詳細に扱うのではなく、どのような場合に共犯になるかや、そもそも××罪が成立するためにはどのような用件を書き並べる必要があるか等を勉強するものである。
 民法でも、総論をまずは勉強することになる。民法における「人」とは何かから始まり、詐欺があった場合は契約を取り消すことができるか?等を議論するものである。

 法律科目の中で特徴的なものはほとんどないが、あえて一つ挙げるとすると、法の基礎という科目が設置されていた。これは、憲民刑各科目のように詳細に講義が進むのではなく、所謂オムニバス形式の講義である。1年生では触れない民事訴訟法や刑事訴訟法、あるいは、国際法分野や環境法分野などについて、広く浅く解説する講義である。
 テストも簡単で、基礎法律科目の単位取得にも丁度いいという理由で多くの学生が選択するのも事実である。しかし、漠然と法律科目を駆使して何ができるのかをイメージする意味では、大変タメになった科目であったと感じている。

 なお、これは例外的な話になるが、1年生の間に債権各論という授業が行われた。これは2019年度から各大学の法学部において「法曹コース」(後述)という法科大学院への飛び級制度が拡充されたことに伴って、1年生に繰り下げられた授業である。 2年生のセクションで債権については触れることとするが、債権分野において、より細かな事例を取り扱うのが債権各論が授業になる。債権は民法に含まれるものであるにも関わらず、民法の学習が進んでいない1年生の段階でこれを学習するのはいかがなものかという意見も聞こえてきた。しかし、理解が難しいものではなく、専門的であるが故に具体例が多く見受けられた。その分イメージもしやすかったように思う。

 大学の教授は研究者でもあるから、学説を議論することを好む先生もいらっしゃるし、学生に対して法律の考え方を深く理解してもらおうと努める先生もいらっしゃる。テストの評価が厳しかったり、教え方の上手い下手によって先生を評価することもしばしばあるのは、大学に進んでからも変わらない。

 余談となるが、法曹コースの講義に法務演習という科目がある。これは、司法試験で出題されるような事例問題を簡素化した問題を練習する講義となっている。講義の前半は出問に関わる法律関係等について講義が行われ、後半は各自が問題演習をしそれを提出するといった形式だ。 
 1年生春学期は例外的に、法曹三者(検察官・弁護士・裁判官)の方が実際に教室にきてくださって、各々の職業について直接話をしてくださった。法学部に入学してすぐに「弁護士になりたい!」等と決めている人も一定数いる。しかし、ぼんやりと法曹になりたいと考えている人にとってはもちろん、法曹として活躍するために各領域の事情を直接伺うことができたことは、大変ありがたいものであったと考える。

法律学:2年生

 1年間の法律の勉強を経て、「憲法民法刑法とはどんな科目なのか」っていうのを理解する。そして、2年生になってからは更に詳しい内容について議論が始められる。

 まず憲法は、民法刑法と比較してそれほど大きな変化があるとは言えない唯一の科目だが、人権問題ではなく統治の話が中心となる。 三権分立の問題であったりとか国会の権能に関する問題あったりとかが中心となる。また、刑法はいわゆる各論分野に突入する。皆さんがイメージするであろう「殺人罪」「窃盗罪」等がどのような場合に成立するかなどを見るということである。ここまで来るとイメージがしやすくなってくるという点、刑法の勉強は進みが早いとも感じる。 そして民法は、債権総論と物権の二つに分けて進められる。一例として、「お金返してぇ!」等行為をさせるのが債権で、「この時計ボクの!」等所有権を主張するのが物権だ。

 本来、法律科目はテスト一本主義で行われている。つまり、出席や中間課題の提出等は皆無で、テストでまとまった点数をとれば良いということである。司法予備試験の勉強をするものに優しい上、法律科目の基礎程度なら自分で勉強した方が早いと考える者もいる点、教授と学生両者の利害関係が一致しているのかもしれない。
 一方で、オンライン講義を余儀なくされた結果として、例年とはやや異なる形でテストは実施された。世に言う持込可のテスト形式であった。すなわち、資料等の参照は自由に行うことができ、それを参考にしながら記述をするというものであった。

法曹コース

 繰り返しになるが、法曹コースとは、法科大学院への飛び級制度である。 制度設計段階でもあるために不確定な部分も一定数あるが、GPAと呼ばれる大学の成績を基準値以上確保すること等が主な要件となっている。 また、GPA以外には法務演習等所定の講義を履修する必要が出てくる。実は、先述の債権各論や法務演習の講義は、必修科目ではないのだ。

 通常4年間学部に通わなければならないところを3年間で卒業することができる制度となっているため、3年間で大学院進学に値する程度の学力を必要とされているということになる。もちろん卒業に必要な単位数の確保が要求されるため、3年間で必要単位数を回収しなければならないという壁も立ちはだかる。非常にシビアな制度設計となっているが、それだけ法曹になるために要する年数がかかることを考慮すると仕方のないものであるとも感じる。
 法曹コースは慶應以外の大学でも設置されている。法曹に興味がある人は、ぜひ一度調べてみてほしい。

語学

 法学部には、英語ドイツ語フランス語中国語韓国語といった武蔵にも設置されている言語の他、スペイン語ロシア語アラビア語などが選択できる。話が横道にそれるが、大学でのクラス分けは選択言語によって決まる。

 英語のクラス分けについて、法学部ではクラス分けの為のテストは設けられていない。オプションのテストを受けない者は皆、レギュラーコースの階層の講義を選択することとなる。制度の詳細は慶應義塾大学法学部で外国語を学ぶなど、公式ページに譲りたい。

 レギュラーコースのレベルは、友人の話を聞いていても、大変に高いというものでもなさそうである。週2コマの英語の講義のうち、一つは大学側から指定され、もう一つは自身の興味関心に合わせて選択することができる。後者のクラスについては、慶應入学よりも難しい「ガチャ」になる可能性も高く、多くの友人が悲鳴をあげていた。

 また、インテンシブクラス(中級)は英語を話す・聞く技能に主眼がある。そのため、留学志向の強い者も多くいるように思う。レギュラーコースが週2コマであるのに対して、週4コマ(必修2/選択2)が必要となっており、イヤでも英語に触れる時間が増える。こぼれ話だが、インテンシブの必修クラス内では、仲が良くなりやすい傾向にある。留学を考えている者は、チャレンジしてみても面白いと思う。

 上級クラスの実態については、詳細をわかりかねるので割愛させていただきます。

一般教養

 慶應義塾大学は総合大学の一つとして知られているが、字義通り総合的に学問に触れるような気概はあまり感じられず、多くの学生が楽単(ラクタン)を選ぼうとする。はっきりと申し上げて、武蔵での授業の方が「当たり」は多い
 この事実はWEB上でもよく確認していたし、入学して新歓期を迎える中で「楽単は○○先生」という話ばかりで「✖✖先生の講義は面白い」という話を聞かなかったため、(残念な話だが)予想通りではあった。それ以上に予想外だったことは、一般教養を担当する教授が生徒に対して熱意が感じられない、むしろやる気がないともいえるような態度で講義に臨んでいたことだ。武蔵の先生方は比較的自身の関心に合わせて、生徒に対して何かしら伝えようとする場面が多かったように感じていたことからも、余計にその温度差を感じてしまったのだと思う。

 また大学に入学してからは「留学に行きたい」という学生も多い。大学提携校に留学にいくためには高いGPAが必要になる。具体的な数字等は各人のWeb検索に譲るが、武蔵の成績で8以上を確保するレベルなのではないかと感じている。高いGPA取得のために、あまり興味がない講義であったとしても成績のために履修する人もいる。一見合理的にみえるが、大学に入ってからも成績を気にし続ける制度があるのは、なんとも大変なものだとも感じてしまったのが正直なところでもある。

3.休み時間

 大学の時間割は武蔵での時間割設計に似ている部分も多く、順応するのに多くの時間は要さなかった。というのも、大学の講義で1日中埋まることはほぼなく空きコマが発生する。このような時間に図書館を利用したり、友達と話をしたり、ゆっくり食事をとったりすることができる。他の方も記されているかもしれないが、昼休みは大混雑で、食堂で席を確保するのが困難を極める。人数も多いため、席を探すだけでもうんざりなのである。

 こと図書館に関しては大変充実していると思う。第一、武蔵大学には法学部が設置されていないこともあり、法律に関する本に触れる機会が在学時は少なかった。大学入学後、読み漁ったとは到底いえないが、一法学部生としてテンションが上がったものである。また、図書館にある蔵書予約システムを使えば、自分が読みたい本が割合早く借りることができる。これは他のキャンパスにある本も、自分が希望するキャンパスで受け取りができるため、非常に便利なシステムだと感じている。

 図書館で本を読んだり借りたりする機会もあるが、空きコマや放課後に課題や自習をするスペースとしても利用することができる。特に試験前になると、話し声が聞こえたり飲食物を口にする音が聞こえたりと心地よいものではないが、これは慶應だけなのであろうか……

4.学校行事

 学校行事は自らが望まない限り参加必須のものはない。
 私立大学一の規模を誇る学園祭と呼ばれる「三田祭」や、早稲田大学と試合を実施する「早慶戦」(係のものは慶早戦と呼ぶ)が主なイベントであろう。三田祭についてもクラスからの出店はなく、希望するサークルや有志で集まったもの、ゼミの発表などが行われる。昨年度、私はどの団体でも参加をしなかったため、(準備期間も合わせ)1週間の休みとなった。この休みを利用して、アルバイトやインターンに行ったり、友達と遊びに行ったりしていた。この時期に旅行を計画する者も少なくない。

 三田祭についてやその他大学行事について、私自身がほとんど参加をしていないため、実態をよく知らないのが本音である。三田祭は11月3週目に例年行われるものであるから、ぜひ行事日程等を確認して足を運んでもらいたい。

5.その他課外活動

 多くの者はアルバイトに勤しんだり、サークル活動に励んだりする。中には、いずれにも所属していない者もいるようであるが、友人を作るという観点からもいずれかのサークルに一旦所属することをおススメする。
 武蔵の同期と話して、各々の大学生活について話を聞いていると、正直大学の友人と話がかみ合わないという話も多く聞く。かくいう私も例外ではない部分がある。しかし、少なくとも慶應においては、話がかみ合う人が誰一人いないと文句を垂れる必要はない。先ほど申し上げた通り「ピンからキリまで」いるので、自分と合う人を探し、合わない人とはサヨウナラしながら、充実した学生生活にすることができると思う。

 なお、アルバイトをすることは決して止めはしないが、関東の大学に進学したものは早くからインターンに応募することを強く推奨する。アルバイトは「時間を払ってお金をもらう」という契約関係の元で働くものであるが、大学生にとって、無駄に払うことができる時間などない。簡単な話、お金を稼ぎながら勉強すればいいじゃないか!という提案である。もちろん、アルバイトを通じて学ぶことがないとは言わないが、あまり学ぶものは多くない。大抵の武蔵生の地頭を以てすれば、飽きるのも早いと思われる。
 詳細は別途記事を公開する予定なので、そちらをご覧いただきたい。

6.終わりに

 慶應義塾大学の講義について可能な限り詳細に記してきた。まだ足りない情報や、在学中であるが故に見えない問題もあると思うが、現時点での見方という程度にご覧いただければ幸いである。なお、講義以外の観点からも記事を作成していく予定なので、他の角度からも慶應大学について理解を深めていただければ嬉しく思う。

 さらに詳しく話を聞いてみたい部分があれば、お問い合わせ欄からご連絡ください。