医学部の生活〜東京医科歯科大学の事例〜

0.はじめに

 武蔵生のみなさん,こんにちは。私は東京医科歯科大学医学部医学科に在籍しています。私の医学部生活もすでに半分以上終わり,みなさんのお役に立てることもだんだんとわかってきたのでここで共有したいと思います。

 医学部進学を考えている人は,医科歯科を考えていなくても是非読んでもらえればと思います。
 まず最初に,簡単な大学の紹介をします。

 東京医科歯科大学は東京都文京区にある国立大学です。学部は医学部・歯学部の2つのみ。将来,医師・歯科医師・看護師・臨床検査技師・歯科衛生士・歯科技工士を目指す人がそれぞれの学科に分かれて勉強しています。大学の敷地内には医学部附属病院と歯学部附属病院を備え,教育・研究だけでなく,診療に力を入れているのが特徴です。キャンパス内を行き来するだけで多くの患者さんを目にしますし,救急車とすれ違うことも日常茶飯事。患者さんに大学の道案内を頼まれることもあります。医療従事者を目指す学生にとって,モチベーションを維持するのにはうってつけの環境です。

 少し,イメージがついたでしょうか。
 では,以下で詳しく大学・学生生活について述べていきます。

1.通学

 医学部医学科は1学年100人程度の小さな集団です。

 本学では,1年次は千葉県市川市にある国府台キャンパスに,2年次以降は東京都文京区にある湯島キャンパスに通うことになります。国府台キャンパスは教養部のキャンパスです。キャンパスは最寄りの市川駅からさらにバスで20分ほどあるので,交通の便が良いとは言えません。一方,医学部・歯学部のキャンパスである湯島キャンパスは,JR中央・総武線および東京メトロ丸ノ内線の御茶ノ水駅から徒歩1〜2分と日本全国の大学の中でもトップクラスのアクセスを誇ります。新宿・池袋・東京・銀座など主要都市に乗り換えなくアクセスできるのは,時間が足りなくなりがちな医学生にとって大きなメリットと言えます。また,少しばかり大学から離れますが,東京メトロ千代田線の新御茶ノ水駅も大学から徒歩5分ほどの距離にあり,この駅を使う人も若干名います。

 首都圏出身者が約8割ほどを占める医学科では,多くの人が6年間自宅から通います。僕も今は1時間程度かけて湯島キャンパスへ通学しています。自宅・一人暮らしについては後ろの項目で別に書いているので,そちらを参照してください。

2.授業

 学年ごとに扱う内容が大きく異なるので,大まかに時期ごとに書いておきます。

(1)1年次

 先ほども述べましたが,1年次は全学科の学生が教養部として,国府台キャンパスで教養の授業を受けます。内容は,語学・自然科学(物理,化学,生物)・人文科学(文学,政治学,経済学etc.)などが主体です。特に,物理・化学で医学部受験をした人は,本学に限らず1年次の生物の授業をきちんと理解しておかないと後から大変なことになります。他にも,武蔵の総合講座にあたるようなS科目という講座,他学科の人と一緒にグループ学習を行う教養総合講座などの授業があります。他学科の人と交流できる機会は(サークル活動などを除けば)1年次でほぼ終わってしまうので,貴重な機会ですね。

 教師も他大の一般教養を担当している先生とあまり変わらないと思います(非常勤講師として本学に勤務し,普段は他大で教えている人も多くいます)。ただ,学生は全員医療従事者を目指し,教養の先生方の専門領域に進む人は皆無に等しいので,ややモチベーションが低い教師もいるのが実際です。

 1年生の科目は試験で評価する科目,レポートで評価する科目どちらもありますが,よっぽど怠惰な生活を送らない限り単位を落とすことはないはずです。

 なお,後期に週1回,医学導入という授業が湯島キャンパスで開講されます。1年次のうちに湯島で受ける唯一の授業です。この授業では,病院見学をしたり少し医学をかじったりします。教養ばかりで「何で医学部きてまで高校みたいなことやってるんだ!」という医学部生のモチベーションを上げるのにうってつけの授業ですね。

(2)2年次〜4年次

 2年次以降は,湯島キャンパスで専門教育(医学教育)を受けることになります。ここからの課程では,教員はほぼ全員が医師免許を取得しています。

 2年次にやるのは基礎医学です。すなわち「ヒトの体の正常」について学びます。医学部最初の関門である人体解剖学実習も2年次の4月から始まります。2年次は医学部の中で最もハードと言っても過言ではありません。1年を通して,午前中は9時から12時まで講義,昼休みを挟んで13時から17時くらいまで毎日何らかの実習を行います。解剖実習では終わりが19時を過ぎることもザラです(昔は22時過ぎまでやっていた時代もあったらしいので,だいぶホワイトになったということなんでしょうか…)。前期のうちは解剖単語テスト(全身の筋肉やら神経やらの名前を1週間に300〜400個くらい日本語と英語で覚える)もありますし,とにかく単位を落とさないように必死に食らいついていく1年です。ちなみに医学部は1年のうち1単位でも落とす(本試験・再試験の両方で不合格になる)と留年してしまいます。2年次から3年次に進級するときは,年によりますが平均して3〜5人くらいは留年すると思います。

 3年次にやるのは臨床医学と社会医学です。臨床医学では,「ヒトの体の異常(病気)」について学びます。社会医学では,「社会全体の健康を増進するために必要なこと」について学びます。臨床医学はいよいよ皆さんが思う「医者っぽい」勉強になってくると思います。心筋梗塞,がん,脳梗塞…数え切れないほどの疾患を1年で勉強します。教員は医学部附属病院で実際に診療に当たっている先生がほとんどなので,授業中にPHS(医師が首から下げてる携帯)が鳴ることも。試験は2年次よりも簡単なので,留年する人はあまりいません。

 4年次は,5月まで臨床医学の続きをやった後,6月〜11月まで学生が研究室に配属され,研究活動を行う「プロジェクトセメスター(通称プロセメ)」を行います。プロセメ自体は本学独自のカリキュラムですが,似たようなことをやっている大学は多数あると思います。プロセメ終了後は,PCC(Pre-Clinical Clerkship;臨床実習前教育)という3年次〜4年次までの総復習的な授業を短期間行ったのち,CBTとOSCEという全国共通試験を受けます。このCBTとOSCEをパスしないと5年次から始まる臨床実習に参加できません。CBTは2年次〜4年次に学んだ医学全般についてのコンピューターベースの筆記試験,OSCEでは問診や身体診察などの手技についての実技試験です。落ちる人はあまりいませんが,なかなか緊張する試験だと思います。

(3)5年次〜6年次

 晴れてCBTとOSCEを通過したら,5年次と6年次の2年間は臨床実習の期間になります。臨床実習では,主に本学医学部附属病院に行って,実際入院していらっしゃる患者さんに話を聞いたり,聴診器で音を聞かせてもらったり,医師の診察や診療に立ち会ったり…。いわば,「医師見習い」として病院で働くわけですね。医学というのは,頭で理解して終わるわけではありません。実際の患者さんがいてこその医学なので,この期間はとても重要な学びの機会と言えます。異常心音はどう聞こえるのか,がんの患者さんの精神状態はいかなるものか,ご家族はどのように患者さんに接しているのか…身体のこと,気持ちのこと,患者さんを取り巻く環境のこと,全てを実際に体験することになるはずです。また,この期間に国家試験の勉強を自分で進めていきます。やることが盛りだくさんの2年間ですね(これまでの4年間も盛り沢山ですが)。

 さて,6年次の夏頃には「マッチング」というものがあります。これは医学部生の就活のようなものです。卒後に働きたい病院を決め,出願し,試験や面談を受けて配属される病院が決まります。マッチングも終わると,秋頃から始まる卒業試験,そして2月に行われる医師国家試験を受験することになります。医師国家試験に合格すれば,無事医師免許を取得でき,4月から晴れて研修医として働くことができます。

3.時間割,休み時間の過ごし方

 医学部は,1年次の一部科目を除き,すべての授業が必修授業です。故に,大学生がよくやる「履修を決める」という作業はありません。大学が決めたカリキュラムをひたすらこなしていきます。科目選択の自由度という意味では武蔵の高2・高3の方がよほど高いですね笑。医師になるためには一通りすべて学んでおかなければいけないので,仕方ありません。

 基本的には「空きコマ」もなく,授業がびっちり詰まっているので休み時間の過ごし方,というのも取り立てて書くことはありません。お手洗いに行って,水分補給するくらいでしょうか…。昼休みは,近くの定食屋さんに友達とお昼を食べに行っています。医学部生の休み時間はどの大学でもこんなものだと思います。

4.学校行事

 10月ごろに「お茶の水祭」という学祭がありますが,非常に小規模なものです。医学部附属病院・歯学部附属病院が隣接しているので,あまり大きい音も出せないから仕方ないですね。めぼしい学校行事というのはあまりないです。

 「学校行事」という観点からはズレますが,2年次には「解剖体追悼式」「ご遺骨返還式」というものがあります。この2つは人体解剖学実習で解剖させていただいたご献体を追悼し,ご献体してくださった本人とその遺族の方に感謝の意を伝えるとても大切な機会です。行事と言えるかどうかはわかりませんが,実際に出席して,医学部生として非常に身が引き締まる思いをしたのでここに記しておきます。

5.人間関係

 医学科は1学年100人程度なので,2年次になるころにはほぼ全員の顔と名前が一致していると思います。学科同期との人間関係は他学科に比べると濃いものになるでしょう。医師になってからも学科同期とのコミュニティは大切(らしい)です。

6.留学など

 本学では,主に4年次と6年次に留学の機会があります。

 4年次の留学は,研究留学,すなわち渡航先の大学で研究活動を行うものです。プロジェクトセメスター期間中に行います。派遣先としては,インペリアルカレッジロンドン(英国),オーストラリア国立大学(オーストラリア),ネバダ大学(米国),ガーナ大学医学部附属野口記念医学研究所(ガーナ共和国)など。

 6年次の留学は,海外臨床実習,すなわち本来なら本学医学部附属病院で行う臨床実習を一部海外で行うものです。派遣先としては,ハーバードメディカルスクール(米国),オーストラリア国立大学(オーストラリア),ネバダ大学(米国),マヒドン大学(タイ王国)など。

7.一人暮らしor寮生活

 本学は多くの学生が都内もしくは隣県に在住しているので,一人暮らしや寮生活をしている学生の数は少ないです。1年次の国府台キャンパスの中には本学の学生寮があるので,そこで寮生活をしている人もいます。

8.最後に

 かなり長く書いてしまいましたが,いかがだったでしょうか。
 医学部の生活,少しは想像がつきましたか?

 最後に,医学部生のキャリアについて書いておきます。医学部を卒業したら,基本的には全員研修医として病院で働きますが,その後のキャリアは様々です。ほとんどの人はそのまま臨床医を続けますが,大学に戻って医学研究をする人,厚生労働省やWHOなどの行政機関に入って保健行政に携わる人,たくさんのキャリアがあります。どうしても,「医学部に入る=臨床医という職業に決める」といったイメージがあると思いますが,医学部生のキャリアは意外と幅広いということを知っておいてください。むしろ,我が国において最強の(?)国家資格とも言える医師免許を活かして様々なことができるのです。

 医学部に入るということは,どんな形であれ,最終的には誰かの人生を救うことを志すのだと思います。医学部を受けようか迷っている人は,「本当に自分は医学部に,医師に向いているのだろうか?」と何度も自問自答することでしょう。ぜひ,医学部を受けるか迷っている人は,自分の近くにいる医学部生や医師に話を聞いてみてください。それが一番参考になると思います。近くに医学部生や医師がいない人は,武蔵の先生に頼めば仲介してくれるはずです。もちろん,僕で良ければいつでも武蔵生の皆さんの力になります。この記事を数学科のM先生や物理科のK先生に見せれば僕に連絡してもらうことも可能だと思うので,試してみてください。

 他の記事に比べて,かなり長くなってしまいました。最後まで読んでいただき,ありがとうございます。この記事が皆さんの参考になれば幸いです。