~東京大学教養学部前期課程 Moratorium in Moratorium~
0.はじめに
東京大学の教養学部前期課程は東京大学に合格した人が全員通うことになる学部である。ここで2年間基礎的な事を身につけた後、希望と成績に基づいて進学先を希望するという「進学選択制度」が東京大学の大きな特徴と言えるだろう。入試の際には、希望の類を出すが、各類について以下の学部
文科1類→法学部 理科1類→理学部・工学部
文科2類→経済学部 理科2類→農学部・薬学部
文科3類→文学部 理科3類→医学部
へ進学することが容易となっている。しかし、もし興味が変われば、(基本的に難易度は上がるが)進学先を決めることが出来る。
大学の制度の概観はここまでにして、当記事ではこの前期課程での私の学生生活を紹介しよう。
1.通学
東京大学教養学部前期課程は駒場キャンパスにて授業が行われる。駒場キャンパスは井の頭線「駒場東大前」から徒歩0分であり、駅からの立地はとても良い。西武池袋線「新桜台」から武蔵まですら遠いと感じていた私にとっては非常に快適であった。
2.授業
教養学部前期課程の授業は、必修に加えて選択授業があり、後者では文理にまたがって授業を選択して受けることが可能である。基本的には各分野の基礎に値する講義が行われている。様々な事が学べるという利点ともいえるが、専門付近にしか興味のないという生徒にとってはノルマが増えるという点で欠点にもなり得るだろう。必修は一概には言えないが、少なくとも選択授業では、大学教員は基本的には自分の専門に興味を持つよう授業をしてくれている。このような授業を受ける機会は殆どないので、個人的には、「食わず嫌い」をするのはもったいないと思っている。私は(一応)理系であるが、教養学部では殆どの時間を語学と文系科目を選択しており、自分の考えが高校時代から大きく変わるほど影響を受けた。武蔵時代にもっと真剣に文系科目を学んでおくべきだったと後悔もした。ちなみに、東京大学は総合大学では最も語学が充実している大学なので、学ぶのは是非ともオススメだ。
評価の基準は主に出席・試験・レポートなどがあるが、教員による。これらに基づいて100点満点で成績が付けられ、先述の進学選択はこの成績の合算によって決定される。必修は全て算入されるが、選択科目はある科目で低点数を取っても別の科目で高得点を取れば代わりに算入させることが出来るので、成績を挽回することもできる。それもあってか、私はそれなりに良い成績を残すことが出来、余裕のある科目選択をしながら希望の進学先に進むことが出来た。
3.時間割、休み時間の過ごし方
東京大学の授業は105分で、集中するのは少し慣れが必要だ。また、1限は8時30分に始まり、5限は18時35分に終わる。このように聞くと勉強漬けなのかと不安に思うかもしれないが、高校の様にびっしり埋まっているわけではなく、普通は週10-15コマ程度しかないので自由時間は割と多い。あまり大声では言えないが、出なくてもよいと判断した講義は出ない人もいる(私がそれかどうかはノーコメントとしておこう)。授業がない時間は友人と遊ぶのもよいだろうし、大学図書館で本を読むもよいだろうし、サークルに費やしてもよいだろう。駒場に限って言えば、キャンパスがそれなりに広く歴史もあるので、散歩をしても面白いだろう。私自身はオープンスペースでずっと友人と話していたので、武蔵時代とほとんど変わらない過ごし方をしていたと思う。
4.学校行事
学園祭の話をしておこう。東京大学には本郷キャンパスと駒場キャンパスそれぞれにて計2回学園祭がある。5月に本郷キャンパスで開催されるのは「五月祭」、11月に駒場キャンパスで開催されるのは「駒場祭」という。武蔵の記念祭と同様に、基本的にはクラス(第二外国語ごと)やサークルで出店の運営や手伝いをしながら楽しむのが基本だが、面倒な場合は全てを無視して家に引きこもる事も可能だ。
私の場合は1年生の時はロシア語クラスの出店の手伝いをしながら、麻雀サークルの出店を手伝いながら楽しんだ。特に五月祭では今の友人と何人も出会えることが出来たので、思い出深い。いつかまた別に記事にしようと思うが、1年生の秋に私は紅茶同好会というサークルを作ったので、2年生以降はその紅茶同好会の出店を運営していた。これは思い出すのも嫌なほど大変であったとだけ言っておく。
5.人間関係
友人は人格を形成するものなので、積極的に作るべきだ。大学では、高校の時と違って「いつも隣の席にいる人」などもないので、友人を作る難易度は高校に比べて高いかもしれない。ただ、同じ授業を受けていたり、同じサークルに属していたりする人は興味や境遇が近い事を意味するので、仲良くなるチャンスを伺うとよいだろう。私は古典ギリシャ語の初回講義で席が隣の友人とたまたま話す機会があり、今ではすっかり友人だ。また、SNSを活用すれば、友人となれそうな人とは比較的簡単に知ることが出来るので便利だ。
恋愛をする人もいる。
6.留学など
夏休みや春休みが2ヶ月ある大学では学校を休むことなく留学に行くことが出来る。また、頑張って進級条件を先に満たしてしまえば、必修がないならば半年程度留学することもできる。また、得難い経験だと思うのなら留年して長期の留学に行くのも選択肢の1つだろう。
私自身は、前期課程では語学に力を入れていたが、特に力を入れていたのは第二外国語のロシア語だ。友人に騙されて……ではなく誘われて、第二外国語をみっちり学ぶプログラムに入り、ロシア語の授業は週4コマ(50分換算なら週8コマ以上!)も受けていた。おかげでロシア語は中級レベル程度にはなり、海外留学の給付型奨学金も見つけたので2年の夏にはプログラムを利用してロシアに1ヶ月語学留学した。死にかけたりもしたが、得難い経験をすることが出来たと言えるだろう。制度を利用すれば懐を大きく痛めることなく留学出来るという事の典型例だと思うので、探してみるとよいだろう。
7.終わりに
大学の紹介と言いながら私の体験談も多くなってしまったが、実体験に基づく方が、リアリティがあってよいだろう。学生は社会に出るまでのモラトリアム(猶予期間)というが、その中でも東京大学教養学部前期課程は専門の学部に進むまでのモラトリアムなのかもしれない。改めて自分の興味が何なのかを問い直し、サークルに入り、友人を作ってから万全の形で専門を勉強できる環境が用意されているというのが私の所感である。月並みになってしまうが、武蔵生ならばその「自由」を享受できるのではないだろうか。